約 730,172 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2802.html
残虐描写が多数存在します。そういったものに嫌悪を抱かれる方は戻ることを推奨します。 武装神姫草創期、それは同時に武装神姫の暗黒時代でもあった。 規定がおざなり且つ曖昧で違法を裁くものが存在しなかった当時は過剰強化された自作武装が表立って猛威を振るい、又は神姫を全く別の物に造り替えてもCSCさえあれば公式バトルに参加出来るような、正に混沌を極めた時代であった。 現在ではオフィシャルの設立、積極的な介入により規定は正確に設定され一応の安寧が訪れているが、その混沌の渦中で破壊された神姫の数は確認されただけでも当時稼働していた全ての神姫の一割に昇ると言われている。 戦いに敗れ破壊される神姫、オーナーによって狂わされた神姫、名誉の為に自害を選ぶ神姫。そうした光景が決して珍しいものではなかった当時を、生き残った神姫達とそのオーナー達は「十五センチの地獄」「世界最小の戦場」「血は流れなかった戦争」等と様々な名称で表現している。 …これはそんな混沌とした時代を潜り抜けた一組の神姫とオーナーの物語である。 そのオーナーはとても幼く、新品のランドルセルを背負っていた。神姫の方も何の変哲も無い、強化改造や自作武装が普遍していた当時ではむしろ異常と言える無改造のストラーフ型であった。 無邪気にバトルに赴く彼らを見た神姫オーナーは誰もが思った。何も知らず神姫バトルの世界に踏み入れてしまった為にストラーフ型は誰かの武装の実験台になり、幼いオーナーにはパートナーを失った傷痕が取り残される。閉鎖的な環境は他人を助けると言う人道的な選択を凍結させ、ただ冷淡と一組の死別を予知させていた。 しかしその予知は大きく外れることになる。ストラーフ型は勝ち続けた。自身は非改造の公式武装にも関わらず自作武装や強化改造を施された神姫を相手に互角以上に戦い、時には最早神姫とは言えない異形の怪物さえも捩じ伏せた。 幼いオーナーはただ応援するだけ。ストラーフ型に何か特別な改造を施された形跡は無く、また強化された武装やオーダーメイドの武装を使うのでもなく、ただ公式の武装だけで、実質何の援助も無しに勝ち続けていく。 何故そんなに強いのか。あるオーナーの質問にストラーフ型は「私はマスターが信じてくれる私自身を護る為に戦っているだけ」と答えている。いつからかストラーフ型は『鬼子母神姫』と渾名付けられた。 …。 …。 …。 泡のように浮かんだ1が弾けて0に溶ける。目覚ましたイシュタルに映ったのはそういう世界だった。ここは神姫の夢の中。広大なハードディスクの中でポツリと浮かぶAIの中。マスターに自分の中身を点検させる度に訪れる異世界である。ただ普段と異なり自分は自分の中に拘束されて身動きが取れない。どうしてこうなっているのかと今にまで至る経緯を振り返る。 休日ということで普段よりも遅くに起床。今朝のマスターの朝食はバタートーストとベーコンエッグとレタスとトマトのサラダ。早めに部屋の掃除を終え電車に乗ってエルゴに。エルゴでマスターは自分の部品と何かの本を買って修理室を借り整備を済ませる。ジェニーと雑談をしていたら日暮夏彦にAIの調査を頼まれたので引き受けた。調査後バトルに繰り出したが満足の出来る強敵とは出会えなかった。帰宅時に神姫狩りに襲われてマスターの無事と引き換えに連れて行かれてしまう。 ということは今ここは神姫狩りのパソコンの中か。素体との接続は保たれており、手が入れられていないことに安心する。マスターと一緒に設計した素体だから他人に解体されていたらどうしようかと思った。そして自分とマスターとの大切な思い出には閲覧記録が無いので二度目の安堵をする。 予想通り今は自分に蓄積されている戦闘データをコピーしているらしい。現状を把握したところでセキュリティの眼を盗んで感覚を広げ今自分の居るパソコンの中を調べる。自分の一部を有象無象のデータの中に飛び込ませ今自分が欲している情報だけを持って来させた。神姫狩り達の行動は非合法とされる賭けバトルへの参加、自作武装の強奪なんて小さな悪事の他、何と世界的に禁止されているはずのMMSの軍事利用を研究している組織とも繋がりが有ることが判明した。 高名な神姫は貴重且つ膨大な戦闘データを持っている。自分もまたそこら辺の神姫とは比べ物にならない戦闘経験を持つ歴戦の兵であると自負していた。それを考えればそれを狙う神姫狩りが自分を狙うというのは正しい審美眼を以て行われた犯罪とも言える。 しかし、それはそれ、これはこれ。他人の神姫のデータを不正コピーさせているパソコンをネットに繋げたままにしているのは迂闊としか言いようが無い。御蔭で衛星を通して今居る場所を割り出す事が出来た。今居るのはエルゴからはそう遠くは無い場所にあるビルの中だ。今直ぐ日暮夏彦にメールを送れば数時間後にはマスターの下に帰れるだろう。だがそれはしない。 武術の達人曰く「武を振るうは下策、その時すでに護身は失敗と心得よ」。それは理解してる。このまま何もせず他人に任せた方がずっと安全だ。けれど悪党を見て自分は何もしない言うのは寝覚めが悪く、調整したばかりの身体を試してみたい気持ちも有り、何よりマスターを傷付けた連中をわざわざ警察に任せ懲役云々で済ませるのは例えマスターが許しても自分自身が許せなかった。…と言うわけで。 「なっ…なんだよ、これっ!」 世界を流転させる。自分を縛り付けていた施錠は藻屑と消える。AI複製ソフトは台無しになり元も子も無くなる。幾らこの世界の向こう側から指示を出そうとも、もう遅い、パソコンの中を調査している間にハッキングを掛けてオーダーの支配権は全て奪い取った。もうここは「私の」世界だ。 世界は流転する。自分自身を砲弾として向こう側の世界に撃ち出す。海の様に緩やかな世界から抜け出した途端、不自由な重力が身体を縛る。二次元の物は三次元に。0と1は隅に追い遣られ赤ん坊が産声を上げている。パソコンの中の世界とは違い、現実世界は思い通りにはならない。だからこの瞬間だけは胸が高鳴った。 感傷に浸る暇も無く素体の中で目覚めたイシュタルは目覚めとほぼ同時に駆け出して慌しくパソコンを操作していた痩せた男の手に昇る。そこから息も吐かせず身体を駆け上がり、その途中で胸ポケットから奪ったボールペンを額に突き立てた。 「なぁ、んがっ?」 混乱、覚醒、襲撃。現実の変動に男の認識が間に合っていない。その隙に首の後ろに回られて、ドスンと一撃。走馬灯に馳せる暇も無く即死する。 神姫にプリインストールされているロボット三原則などイシュタルにはあってないようなものだ。人間にとっての憲法や法律と同じもので守る必要が有ると思えば守るし破っても構わないと思えば平気で破れる。 「…ふむ」 イシュタルは崩れ落ちる人体に巻き込まれる前に着地。神姫である自分にも罪悪感なるものが存在するのか殺めた手から後味の悪い感触が伝わっきたが、大したものでもないので無視する。 それよりも次はどうするか。残り二人とその神姫達は皆殺しにするのなら一人づつ静かに消していくのが効率的だ。全身から電磁波を飛ばしその反射波をレーダーとして建物の中の構造と人物と神姫の動向を把握する。 キッチンで女が調理をしている。リビングで男が飲食している。玄関にフォートブラッグ型と紅緒型が将棋をしている。洗濯機の前でジュビジー型がアタフタしている。小部屋でムルメルティア型が射撃訓練をしている。冷蔵庫の近くでストラーフ型が食材を運んでいる。小皿に乗せたコーヒーカップを持ったエウクランテ型がこちらに向かっているので急いで駆け出した。 「マスター、コーヒーを持ってきました」 出会い頭にエウクランテ型をボールペンで殴打。小皿とカップを奪い取り音を立てさせないよう床に転がした。エウクランテ型は混乱しながらもイシュタルを認識し後方に跳びながら体勢を立て直す。 「貴方一体どうやって…いやそれよりも、貴方、マスターに何をしたの!?」 自分と大差ないストラーフ型の向こうに何倍も大きな人影が倒れていた。身動きどころか呻き声すらも上げないマスターの姿は否が応でも嫌なものを連想させ、それを振り払うように声を張り上げる。 「君のマスターは『君の仲間に』殺された」 イシュタルは嘘を吐くと同時にイシュタルはエウクランテ型に接近し押し倒した。首を絞めコアとCSCの接続を捩じり切る。 真実を教える必要は無い。大事なのは相手が全く想像していなかったことを言い放って、その意味を考えさせる事だ。一瞬の隙が致命傷に繋がる場において口先三寸ほど有効なものは無い。 電磁波を使ったレーダーで今のエウクランテ型の大声を聞き付けた人物は居ない事を確認する。 「マスターを苦しめた武器を私が使う事になるとは」 流石にボールペンは取り回しが悪いので物言わぬエウクランテ型からエウロスとゼピュロスを拝借した。そして誰にも見つからないように音を立てず隠れながら自分のCSCが発する電磁波の周波数も書き換え対神姫センサーにも引っ掛からないように移動。先ずは誰とも一緒に居ないムルメルティア型だ。 確か向こうの神姫には自分と同じストラーフ型が居た、それを利用させてもらおう。表情の違和から別の神姫だとばれないよう俯きながら如何にも悲しい事が起きた後の様な重い足取りでムルメルティア型が居る小部屋に侵入する。 「おぅ、ストラか。…どうした、またマスターに怒鳴られたのか?」 「そうなの…マスターが…」 ムルメルティア型は気付いていない。イシュタルはちょっと自分を褒めたくなった。それを抑えて可哀想なストラを演じながらも何も言わずにムルメルティア型の胸に飛び込む。 「しょうがない奴だなぁ。今から一緒にヂェリカンを飲もう。愚痴を聞いてやるから」 気の良いムルメルティア型の胸にそっと手の平を重ね、微弱な電気をエネルギー供給路に流し込み強制的に停止させた。 「おっと」 自我を失い崩れ落ちるムルメルティア型を床に降ろして胸のハッチを開きCSCに電磁波を利用したハッキングを仕掛ける。 手から発する電磁波の周波数を調整、イメージとして自分の手をクレイドルに、素体をパソコンに変えてムルメルティア型に自分のAIをインストール。セーフティを外す為に正規のセキリュティソフトが取り除かれていた御蔭で楽に侵入出来た。バックアップをクラックしオーバークロックを掛けてメモリに過負荷を与える。全てを書き換える必要は無い、とりあえず自分以外のものは全て倒すべき敵であると錯覚してもらえればいい。 エラー、バグ、メッセージ、レジストリの抵抗を一切踏み躙ってムルメルティア型のAIをそういう風に作り変える。自分一人で全てを倒すのは大変だが二人、それも敵の仲間を裏切らせたとなれば敵に対する衝撃は大きく殲滅作戦も遣り易くなる。 僅か五分足らずでハッキングを終え、再起動させらたムルメルティアの眼には光が無く、そこに居るのはイシュタルの命じられるがまま動く人形だった。 「派手に暴れて来い」 「了解、マスター」 ムルメルティア型には自分の武装を装着させてからリビングに向かわせ、その後ろをイシュタルは誰にも見つからないように隠れながらもついていく。 リビングでソファに腰掛けていた男は酒を飲んでいた。飲み始めてから随分経っているのかアルコールの臭いが充満していて自分の神姫を見る視線にも焦点が有っていない。直ぐ近くで起きた異変もそこに倒れている仲間の死体にも気付かずまだ大物を捕らえた達成感に酔っている。 「ぁー? 今日くらいはいいだろぉ、なんたって大物を捕まえたんだからなぁ」 酔いの所為かムルメルティア型に砲口を向けられても、それはただの威嚇だと思っていた。しかしその予想に反し3.5mm主砲は唸りを上げ徹甲弾が酒に蕩けた目玉を四散させる。 「ウギャァァアアアアアア!?」 自分のマスターの悲鳴を気にも留めずムルメルティア型は接近し鋼芯を叩き込んだ。元々最大級の火力を誇るそれは違法改造によって最早人を殺傷出来る凶器と同義であり易々と人肉を食い破って内臓に風穴を開ける。 血の噴水に床が汚され自らを赤く染め上げてもムルメルティア型は止まらない。生存本能に振り回された両腕を無視して人体に穴を開ける作業に没頭する。肝臓と腎臓が穿たれ激痛にのたうちまわり、とうとう左胸の上に標準が合わせられたところで、 「何やってるんだよ、ルーティ!」 悲鳴を聞いたストラーフ型の放ったウラガーンに妨害され玄関に居たフォートブラッグ型と紅緒型、洗濯機の前でアタフタしていたジュビジー型も駆けつけた。全員、只事ならぬ事態を感じ取っていたのか武装している。 「クレナイは田西さんとクウを呼んできて! 念の為、ユーは僕のマスターのところに!」 「心得た、直ぐに戻ってくる!」 「分かりました!」 ストラーフ型の指示によりジュビジー型はキッチンに向かい、紅緒型はイシュタルが居る方に向かい、残ったストラーフ型とフォートブラッグ型が暴れ回るムルメルティア型に応戦する。 イシュタルは壁の上に立つことで紅緒型から見つからないようにやり過ごし音も無く紅緒型の背後に降り立つと振り向かせる暇も与えず首を掴んで中の回路を捩じり切った。 残るは洗脳したムルメルティア型と戦っているストラーフ型とフォートブラッグ型と、キッチンから動こうとしない女性とそれを護るジュビジ―型。建物の中を調べられ自分達の犯罪行為の証拠を見つけられる事を恐れてか警察や救急車を呼ぶ気配は無い。それはイシュタルにとっても好都合な事なので恐怖で気が変わらない内に女性とジュビジー型から始末することにする。 「大丈夫ですよ、マスター。きっと畑野さんなら無事です…」 キッチンではジュビジーがリビングの惨劇を己のマスターに教え、慰めていた。女性は神姫達に任せれば大丈夫だからと自分はキッチンの隅で縮こまっていることを選んだようだ。キッチンの出入口から女性とジュビジー型の居る場所までは大分距離が有る。 ムルメルティア型にしたように仲間のストラーフ型の振りをして近付くことも考えたが、武装の有無から怪しまれるかもしれない。出入口からジュビジー型を操作することも出来るが遠距離から神姫を操るなると自分のバッテリーを大量に消費する上に命令から行動までにタイムラグが生じ女性を逃す可能性も有ると判断し真正面から堂々と忍び込んだ。 特に神姫であるジュビジー型には一瞬でも見られてはいけないので特にそれを気にしつつ少しづつ接近していく。勿論、リビングでの戦況の把握も忘れない。ムルメルティア型があっさり負けてしまわないよう祈りながらも物陰から物陰に移動し壁を這い蹲って天井を走り、数分掛けて何とか彼女達の真上の天井に立つ。 ゼピュロスを投げ一人と一体の視線がそちらを向いている内に落下、女性の首筋に着地して振り返りながらも一閃。エウロスの刃で頸椎を切断し、混乱と恐怖の中で絶命させた。 「なっ、貴方は…っ!?」 ジュビジー型の驚きを余所に問答無用でCSCを狙い突くも、エウロスは固い装甲に遮られる。 「無駄です!」 「そうかな」 ならばもう片手での正拳突きを繰り出した。これも装甲に止められたが問題は無い。拳から装甲を通してジュビジー型のCSCに電磁波を流し込むことで強制的に停止させ、今度こそCSCを貫いた。フィクションの拳法に頑強な鎧を着た相手に自分の気を通してダメージを与える鎧通しという技が存在する。神姫であるイシュタルは機械の動力である電気を気の代わりにすることで神姫流の鎧通しを編み出していた。 「さてと」 一人と一体を暗殺した後でもリビングでの戦いはまだ続いている。人間の方は皆殺し終えたのだからもう隠れる必要は無いと判断してイシュタルは堂々とリビングで姿を見せる。ムルメルティア型のオーナーだった男は出血多量で死んでいた。 「な、お前は…っ!」 ムルメルティア型は大分傷付けられていたが致命的という程でも無さそうだ。イシュタルは安心して近くに居た、又同型と言う理由でストラーフ型に襲い掛かる。エウロスの刃先を副腕で持ったグリーヴァで受け止め両手に持ったコートとコーシカで突き出された腕を斬り落そうと振り上げたがイシュタルは斬撃より一歩早く腕を引いて、ならばと繰り出された追撃の回し蹴りも脚が胴を捕らえると同時に衝撃と全く同じ方向に跳ぶ事で完全に威力を完全に殺しつつも距離を取った。 着地し無防備になったその瞬間を狙いフォートブラッグがイシュタルを狙撃しようとしたがムルメルティア型によって妨害される。操られた3.5mm主砲が仲間の足を引っ張った。 「くそっ、とっとと目を覚ませ! お前の相手は俺じゃねぇだろぉ!」 ストラーフ型がロークのガトリング銃口を突き付けた先にもうイシュタルはおらず、瞬間すぐ間近にまで迫っていた。放たれた拳がストラーフ型の胸に当たる寸前で副腕で受け止められるが、それなら副腕に触れる手から電気を流し込む。本来ならこのまま先のムルメルティア型、ジュビジー型と同じ運命を辿るはずだったストラーフ型は何と直感で嫌な気配を感じ取り電気がCSCに至る前に副腕を強制排除することで逃れた。 「ほぉ」 理由は分からないが、よくぞ破った、流石は自分と同型と口には出さないが自画自賛。自分の必殺技が破られたところで平静は揺るがない。イシュタルは蛇行しながら走ることでジーラヴルズイフの狙いを乱し格闘戦に持ち込んでエウロス一本でコートとコーシカの二刀流を相手に圧倒する。改造と非改造の性能差を埋めて凌駕する技術と経験の差がストラーフ型を追い詰めコーシカが弾き飛ばされた。大袈裟に距離を取ろうとしているストラーフ型をつまらなさそうに笑う。 「弱いな。そんなだから、自分のマスターさえ守れないんだ」 「…!」 平静を保とうとしていた感情の琴線がピクリと動いた。 「一体マスターに何をした!」 「殺した。そこに死体があるぞ、見てくるか?」 「…貴様ァァッァアア!」 まるで明日の天気でも話しているようなその口に目掛けて、過剰負荷を掛けてでも一瞬でブースターを最大出力にまで噴出させ防御も何も考えない特攻を仕掛ける。触れれば何もかもを壊してしまいそうな純粋な憤怒、確かにそれを真正面から受け止めるのは恐ろしいがそういうものほど折り易いものは無いことをイシュタルは知っていた。 だから身を屈めるだけでも容易く無防備な真横を取ることが出来、エウロスの切っ先でストラーフ型のCSCを貫く。 エウクランテ型を嵌めた時とは異なり今度は嘘を吐かなかった。不安は心を揺らがせ怒りは眼を曇らせる。言葉責めは戦闘の常套手段だ。尤も、スポーツマンシップに反するので公式の試合では使えないのが玉である。 兎にも角にも残るはフォートブラッグのみだがそれも直ぐに決着が着いた。 「くそっ、くそっ…くそぉおおっ!」 ムルメルティア型を盾にしたイシュタルに力押しで接近されフォートブラッグ型は成す術も無く殴り壊される。今際の断末魔がフォートブラッグに出来た唯一の抵抗だった。これでビルの中で動くものはイシュタルとムルメルティア型だけになる。そのムルメルティア型も自由意思は存在しないのだから実質はイシュタルのみ。 後始末をしなければならない。三人も殺せば自分の廃棄処分は免れない事は理解しているのでそうならないよう今の状況に細工を加える必要がある。 「止まれ」 「了解、マスター」 命令に従って自ら停止するムルメルティア型を再びハッキングし最後の役割を命じる。警察はこの殺人事件調査する際、真っ先に神姫のメモリを閲覧するだろう。それを見越してムルメルティア型のAIとメモリを「度重なる違法改造で狂ってしまった」と書き換えて、この惨劇の犯人に仕立て上げさせようとしていた。 やや苦しい言い訳だが上手く騙し通せる自信が有る。改竄された形跡を残さないと言い切れるのも有るが、何よりも証拠が無いからだ。神姫に指紋なんてものは無いし頭髪にしても同型が居る。電磁波を使ったソナーでカメラが無い事も確認済みで唯一の手掛かりは神姫の中身だけ。 そして最後にして決定的な証拠である自分自身の記憶でさえも問題は無い。ムルメルティア型のAIとメモリの書き換えを終えたイシュタルは最後の仕事として自分の胸元に手を置いた。「自分自身の心と記憶を書き換える」。ここでやったことの記憶を全て消せば自分はただの被害者であり人間を攻撃出来ないノーマルの神姫だ、オフィシャルもそれは疑わない。 薄れゆく意識、失っていく記憶、消えていく自我の中、殺人姫は満足げに微笑んだ。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1252.html
第五話「プラモ」 「正直…プラモ狂四郎に習ってきたら?」 タミヤ製F-4EJの1/144のプラモを見ながら、ヒカルは言った。 このファントムはつい昨日に製作した出来たてホヤホヤである。 …買ったのは去年だったりするが 「しょうがないだろ、本格的に作ったのは初めてなんだから」 形人は小学生の頃からベストメカセレクションのガンプラを作っているくらい。プラモ好きであった。 その他にも、宇宙戦艦ヤマトやマクロスなど、とにかく色々作ってる。 作ってないのは戦車と城などの建造物くらいだ。 「ねえ、今度はクルセイダーと90式を買ってよ」 「バカ言え!もう小遣いはスッカラカンだ!」 「紙ヤスリ(300円)と缶スプレー(ミディアムシーグレイ、400円)買っただけで無くなるってのもどうかな…」 「いつも言ってるだろ、小遣いは月3000円だって!」 ちなみにF-8クルセイダーは1200円だったりする。 何となく、シン・カザマ(初期)みたいな心境… 「オマケに継ぎ目は残ってるし、デカールだって機体横の国籍マークを台無しにしてるし…」 「でもってアンチグレア塗装もトチってるってか?」 「そこまで言ってないよ…、…思ったけど」 「やっぱりかい」 「クルーセイダーを買うよか、積んであるマクロスのキット(アリイ製復刻版)を組むのが先だろうが」 「まあね」 笑いながらヒカルはふと、形人の左手を見た。 スプレー塗料の使用により、グレーに染まった爪。 傍から見て、目立つ。 「ねぇ形人…、身体大丈夫?」 「ん?、…少し、頭が痛いかな…」 「そう…」 「寝れば治るさ」 「薬は?」 「もう飲んであるよ」 「形人、もう寝たら?、明日も早起きするんでしょ?」 「あ?、ああ」 「じゃあ寝てよ、寝坊して迷惑するのは形人だけじゃないんだから…」 「わかったわかった、寝るよ」 「何でくまを持ってここに居る?」 「私も一緒にねる」 「バッテリーは?」 「充電不要のメモリ9、昼間に寝てたから」 「そうかい、じゃあおやすみ」 「おやすみなさい、形人…」 形人もヒカルも、すぐに深い眠りに落ちていった。 二人の夜は、早い。 次回予告 え?今回の担当僕? 突然だけど、目が見えないってゆうのは、非常に怖いよね。 次回「風間の神姫」…であってるよね?(N:風間) 武装神姫でいこう!?に戻る トップページ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2627.html
あれから何日か経った。 神姫が家に来て、二つわかったことがある。一つは神姫NETサービスで確認してみたら、この子の個体名は本当になくなっていた。 武装神姫は起動時、オーナー登録を定められている。そして事故・ロストなどの要因で神姫がなくなると、登録データは消すことになる。つまりはこの子のオーナーが、データを必要しなくなったということだ。 名前がなくなり、悲しい顔になっていたので僕が代わりに新しい名前をつけた。 (今日からキミは、詩音―シオン―だ) そう言ったら、嬉しそうにまた泣いた。よく泣くよな、と、『シオン』の頭を撫でながらそう思った。 もう一つは時折、シオンは考え込んでて遠い目をしていること。 シオンはやっぱり、気になるのではないだろうか。前のオーナーが、ストラーフ型の姉が、今頃どうしているのか。 聞いてみても、はぐらかされるだけで本心はわからない。名前の繋がりも消されていているのに、それでもだ。 ―――― そのシオンは今、僕が学校の図書室から借りてきてた本を読んでいる。 僕が学校に行っている間は、シオンは暇なのだ。それで何か、やりたいこととか、したいことある? と聞いてみたら、本が読みたいと言ってきた。 物語の本が読みたいとのことで、文学、推理、ファンタジー、恋愛、はたまた時代劇小説を数冊借りてきた。 それら全て読破するらしい。 僕も本は好きなので、一緒に読んでいるところでもある。 本が好きで物静かで戦う事が苦手なアーティル型。すごく珍しい気がする。 「少し聞きたいことがあるんだけど」 気になったことがあるので、本から顔をあげてシオンに話しかける。 「なんでしょうか」 「シオンの、前のオーナーのことをさ、教えてくれないかな、なんて」 「……どうしたんですか?」 「い、いや、僕の友達がゲームセンターで、強いストラーフとそのオーナーの試合を見たっていうから、もしかしたら、前のシオンのオーナーなんじゃないかなと、思ってさ。はは」 シオンが悲しそうな顔色になった気がするので、少しどもってしまった。別にこれはとっさのことでの言い訳ではない。 今日、淳平とミスズにシオンのことを詳しく話した。そしたら、もしかしたらと思ったのだろう。最近、ストラーフ使いのオーナーがゲームセンターに来ていると話してくれた。 「真っ赤な剣を持っているストラーフでしたか?」 「うんうん、言ってた。神姫一体ぐらいの大きさの剣を使ってるらしくて、すごく強かったらしい。オーナーの人も女性だったけどすごく貫禄があったって」 「やっぱり、マス……前マスター凛奈さんとイスカお姉ちゃんですね」 ビンゴだった。 (そして、最近現れたということはあっちもシオンを探している可能性があるな。) 「凛奈さんとイスカっていうんだ。……会いたい?」 とりあえず考えは横に置いておいて、聞いてみる。 「……わかりません。勝手に出て行ったのに、会ったって何も言えるはずないです」 そう言って、悲しそうに微笑むシオン。 「でも」 「あっちも、私みたいな玩具のことなんて気にしてないですよ。きっと、色々な人とバトルしたいから、ここにも来たんでしょう」 そう言って、本に顔を戻す。 ダメだ。暗い方に考えがちになっている。やっぱり、シオンの為にも何かしなくちゃいけないよな。この子はもう僕の神姫なんだから。 ―――― 学校の教室の風景。四時間目の授業が終わった。 昼休みになり、先生が出ていくと、クラスの各々、机をくっつけあって弁当を持ってきて食べる人や、学食に行って食べる人、購買部に行ってパンを買う人がいる。 僕は、その中では弁当派だ。 クラスの皆には自分で弁当を作ってくるなんて、女の子みたいと言われたことがある。 うるさいな、ただでさえ童顔っぽいのががちょっとコンプレックスなのに。僕はもうちょっと、ワイルドな雰囲気の大人を目指して、行く行くはバイクの免許とかもとって……。ああ、でもタバコは吸いたくないな。 「よう! 螢斗は今日も手作りお弁当か、女の子っぽいな! そんで一緒に食おうぜ」 「あのさ、なんで淳平はいつもそう言ってから、隣で食べようとするの?」 「いやいや、もうこれは恒例行事でしょ。お弁当を出すたびに、螢斗は女子にも男子にも尊敬の眼差しが向けられるのさ。そんで卵焼き何個かくれ!」 はいはいと返事をして、淳平に分ける。 お弁当は少し多めに作っておいてある。が、断じて淳平の為じゃない。 ミスズの為だ。淳平は弁当なんて持ってこないし、購買のパン数個しか食べない。神姫にあげられる食べ物がパンの切れ端だけだなんて可哀そうすぎる。 ミスズはそれでもいいみたいだけど、僕が隣で見てられない。 淳平も食べるがちゃんとミスズにも分けてあげている。そんなのが微笑ましく思える。 「それで、どうなりました? シオンさんのこと」 「モグモグ……そうだな。モグモグ……気になってた」 「淳平は食べてから喋ってよ。その件の事で帰りにゲームセンター行こうと思って、そのストラーフ使いの人に会ってみたくなってさ。ちょっと一緒に来てくれない?」 「ん……いいぞ。ミスズの新しい戦法を試そうとしていたところだ。スペシャルでカッコイイのを寝ずに考えた」 「マスター!! もうすぐ高校では試験もあるんですから、勉強もしてください」 ミスズはしっかりしてるけど、淳平はバトルとかどうなんだろうか。こんなことを言ってるけど、真面目に取り組んでいる結果かもしれない。 武装神姫同士のバトル。 改めて考えると、どうなのだろうか。一応は遊びだし、バーチャルらしいので、神姫が亡くなってしまうことはない。テレビでも、有名な大会は夜中に中継されている。 けど、僕は見たことはないし、淳平が試合の事とか一方的に話すのを聞いたぐらい。上位ランクからの大会とかはリアルバトルもあるとのこと。 そんなレベルだとプロの領域だ。 シオンを持っていたオーナーもそんなレベルの人なのだろうかと考えたのだけど、止めた。バトルをするわけでもなし、一度会ってみる。 ただそれだけなのだから、気になることがあるから話してみたいのだ。 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2443.html
MMS戦記 外伝「敗北の代価」 「敗北の代価 2」 注意 ここから下は年齢制限のある話です。陵辱的な描写やダークな描写があります。 未成年の方は閲覧をご遠慮下さい。 深夜の闇に包まれた高層ビル群・・・生暖かい風が頬をなでる。 日本の近畿地方、大阪府のほぼ中央に位置する市、大阪市 大阪市は、近畿地方の行政・経済・文化・交通の中心都市であり、市域を中心として、大阪都市圏および京阪神大都市圏が形成されている。 古代から瀬戸内海・大阪湾に面した当時の国際的な港である住吉津や難波津などのある外交に関連した港湾都市として栄え、古代の首都としての難波宮、難波京などの都城も造営された。中世には、浄土真宗の本山であった石山本願寺が置かれ、寺内町として発展した。近世初期には豊臣秀吉が大坂城を築城し、城下町が整備された。江戸時代には天領となり、江戸をしのぐ経済・交通・金融・商業の中心地として発展。 第二次世界大戦中には大規模な軍事工廠が乱立し、大口径の火砲を主体とする兵器の製造を担ったアジア最大の軍事工場地帯であった。また、戦前中の日本では重工業分野においてトップクラスの技術や設備をもっていたため、官公庁や民間の要望に応えて兵器以外のさまざまな金属製品も製造していた。 あの戦争から100年たった今でも、その名残を残すかのように工場が乱立していた・・・ 2040年代 大阪 かつての首都「東京」は度重なる震災と不況によりかつての栄光は失われ、代わりに急速に新興したMMS産業の生産拠点として商業工業大都市「大阪」が何百年かぶりに日本の経済と人口の中心地を取り戻した。 だが、MMSを使った凶悪な犯罪組織やそれに結託したMMS企業が暗躍する魔都でもあった・・・・ 大阪港の端、貨物船やフェリーが静かに停泊している。その一角に真っ黒の巨大な豪華客船が停泊していた。 豪華客船のタラップの入り口で一人の若い短いホットパンツと薄いシャツを着た女が、携帯を弄る。 傍らには、完全装備の天使型がびくびくと怯えている。 □天使型MMS「ルカ」 Sランク 二つ名「スピード・エンジェル」 オーナー名「神代 麗」♀ 20歳 職業 フリーター ルカ「あああ・・・ああの!!ま、マスター」 神代「なに?ルカ」 ルカ「神姫が壊れるまで戦わせる地下非合法バトルってのがあるらしいですけど・・・怖い話ですね ・・・」 神代は携帯をぱこぱこ打つ。 神代「なに言っているの?いまからアンタ、それに参加するのよ」 ルカ「え・・・ええええーーーー!!」 ルカは目をぱちくりさせて飛び上がる。 神代「冗談、冗談」 神代はニヤニヤして笑う。 ルカ「ふーーーあ、焦りましたよー」 神代「今日はちょっと、裏の非公式バトルロンドを覗くだけよ」 ルカ「ふわーーー、やっぱり本当にあるんですね」 神代「よし、パスワードのメール送信っと」 神代はタラップの扉の前でメールを送信する。 ゴコン・・・船の扉がゆっくりと開く。 ルカ「あれれえ!?」 肩に神姫を乗せた黒いスーツを着た若い男が出迎える。 □シスター型MMS「マリー」 Aランク オーナー名「安藤 巧」♂ 25歳 職業 ??? 安藤「いらっしゃいませ、神代様」 神代がチラッと携帯の画面を見せる。 神代「ここかい?裏の非公式バトルロンドの会場は?」 安藤はニコリと笑う。 安藤「どうぞ、こちらへ」 すっと手を伸ばし案内する安藤。 ルカ「ええええーーー!?」 真っ黒の客船の中は綺麗に整っており、シャンデリアがきらびやかに光輝き、赤い絨毯が敷かれ、何十人もの神姫やオーナーでごった返していた。 いかにも怪しい風体をしたオーナーたちはテーブルを囲み、立食をしたり神姫の話をしたりして騒いでいる。 神代「これが噂の豪華客船『アヴァロン』か・・・」 安藤「MMSクルーズ客船『アヴァロン』総トン数50,142トン全長240.96 m、定員乗客数800名乗組員数 約440名、内装はすべて一級品、船内中央には大規模バトルロンドも可能なステージを搭載しております」 神代「考えたものね、豪華客船を使って裏の非公式バトルロンドの会場にするなんて・・・」 安藤「この船の船籍はとある外国のものとなっており、中は治外法権、ここではあらゆる非合法行為が可能となっております」 神代「アヴァロンという言葉は妖精の世界、または冥界を指す・・・ふふふ、非合法の武装神姫の裏バトルロンドをするには、これ以上ないくらいのエスニックの聞いた船名じゃない」 マリー「どこかにあるとされる伝説の島『アヴァロン』都市伝説でよく語られますが、実際に存在するのが本船です」 神代「これだけ派手に豪勢にやってるってことは、スポンサーと主催者はさぞかし羽振りがいいんでしょうね」 神代の目がキラリと光る。 マリー「ご冗談を・・・」 安藤はふっと不敵に笑う。 ルカはステージの中央で開かれている非公式のバトルロンドを見る。 非公式バトルロンド それは非合法MMS犯罪組織が主催する闇のバトルロンド・・・ MMSは、社会に多大な影響をもたらしたが、そういったMMSは2030年代後半にはかなりの数が普及し、全国に相当数の神姫センターが作られるようになった。だが公式の一般的で健全なスポーツ大会などの大衆娯楽に飽きてしまったマスターや神姫が多いことも手伝って、瞬く間に地下の非合法の間に浸透していった。 リアルデスバトルというものがある。実弾入りの重火器を用いて戦う、文字通りのリアルファイト。参加する神姫のギャラも、賭けの配当が高いが、MMSを破壊するだけでなく、CSCを完全破壊することも厭わない殺し合いである。一応、観客保護用のバリケードも出てくるものの、流れ弾に当たって観客が殺傷するケースも多い。しかし、そんな危険と隣り合わせの緊張感でさえも観客に興奮と刺激を与えるものとなり、実戦での緊張感が伝わってくるといわれる。 基本的に1対1で戦うルールだが、場合によってはハンディキャップマッチも組まれることがあり、大規模バトルロンドでは強ランカーMMS1体 対 通常MMS100体 という超変則マッチが組まれるようなハンディキャップマッチが行われることも多々ある。他にも泥レスに近いダートバトルに、複数神姫のチームによるバトルロイヤルなどいろいろなものがある。また、この手の非公式バトルロンドではよくある観客や審判の目を盗んでの反則行為や、八百長によるイカサマも後を絶たない。このような非公式の地下バトルロンドはMMS企業が開発したカスタム強化したMMSや新型MMS、イリーガル神姫の実験場としても用いられた。 その内容は時としてネットの闇動画サイトに流れ、堕落した神姫オーナーの暗い欲望を満たす為に放映される。 また非公式バトルに参加するオーナーは、戦いの緊張度を高めるために「賭け」を行うことが基本ルールとなっている。賭けるものはなんでも構わない、多いのは「金」「高価な武装神姫のパーツ」等など、多種多様だが、若い女性が金銭目的で大金を賭けて、自分には金がない場合は、体を差し出す場合がある。無論そのような勝負に敗北することが、それがどういう意味かは、わざわざ語るべくもない。そのような危険な賭け試合であるが、手軽に大金を入手することができるので、若者や青少年に人気が高く、社会問題にもなっている。特に未成年の女性が勝負に負けて暴行を受けてしまう事件が後を絶たない。 まさに、金に釣られて来るオーナーを堕落へと導く非合法のショーである。 ルカ「た、たんなる下らない都市伝説のひとつだと思ったけど・・・ほ、本当に実在するなんて・・・」 ルカはごくりと唾を飲み込む。その視線の先には、激しいバトルを繰り広げる神姫たちの姿があった。 右腕を失った悪魔型神姫がばっとビルの陰から飛び出す。それに向かって巨大な戦車砲を撃つ戦車型神姫。ズンと鈍い音を立てて、ビルが粉々に崩れ落ちる。 悪魔型がハンマーを振り上げ、戦車型神姫の頭を砕く。 ぐしゃあと心地よい音を立てて、戦車型神姫の頭部がざくろのようにはじけ飛ぶ。 悪魔型神姫のオーナーがガッツポーズをする。 オーナー1「よっしゃあ!!!10万ゲットだぜ!!」 戦車型神姫のオーナーはぐしゃぐしゃと頭を掻き毟る。 オーナー2「ちくしょーーー、ついてねえーー」 神代「賭けバトルか」 安藤「はい、ルールをご説明しましょう」 安藤はすっと大画面を指す。マリーが答える。 マリー「ルールは単純です。参加する神姫のオーナーは金品を賭けます。そして戦いに勝ったオーナーはその金品を得ることができます。また戦いに参加しなくてもあちらの方のように」 神代はバトルステージの端にあるやかましく叫んでいる男たちを見る。 マリーが丁寧に説明を行う。 マリー「彼らはハンディ師です。。その人が、それぞれの試合に対して、さまざまなハンデをつけていく。例えば先ほどの悪魔型vs戦車型なら、戦車型にハンデが2点与えられるといった具合だ。そうなると、悪魔型に賭けた場合、2点差以上で悪魔型が勝たないとその賭けは負けになってしまう。このハンデが勝負の妙を演出し、非常に熱くなれるポイントです。掛け金は最低1試合1万円が相場ですね。 また、単純に『強い神姫』に賭ければいいというものでもないことをご理解ください。ほとんどの武装神姫のハンデはほとんどが1.0などに設定される場合が多い。つまり、2点差をつけて勝てば儲けが出るわけですが、これが盲点です。強い新規ほど接戦をモノにする戦いをしています。分かりやすくいえば、1点差で勝つことができるのが強い神姫の条件ともいえます。ハンデが1.0で、1点差で勝っても賭け自体は負け。そういったことが多々あるギャンブルがMMS賭博なのです」 ルカ「うわー・・・なんていうかそれって・・・・」 ルカが呆れる。 神代「昔からよくある手よ、結局、親が一番よく儲かるような仕組みになっているのよ」 安藤「はい、ですので・・・直接戦って賞金を得る方が多いのが、MMS賭博の面白いところでも、ございます」 神代「金がない場合は?」 安藤「・・・・・男がカネを賭ける、女が身体を賭ける・・・と言った行為も可能と言えば可能ですが・・・」 安藤は品定めするような目で神代を見る。神代は腕を組み、安藤を睨む。 神代「ちなみに、私だったら相場はいくらかしら?」 ルカ「ちょ、ちょっと・・・マスター」 ルカがぐいぐいと神代をつつく。 安藤がパチンと指を鳴らす。マリーが後ろを振り向き、叫ぶ。 マリー「醜男!!来なさい!!」 ぎいいと扉の後ろからのそりと背筋の曲がった醜悪な容姿をした不気味な男が這い出てきた。 醜男「ふひへへ・・・お呼びですかい?マリーさん」 つんと腐ったチーズとイカのような悪臭が男から漂う。 ルカ「ひいい!!く、臭い」 ルカが後ずさる。 神代「・・・・」 安藤はニコニコしながら喋る。 安藤「この男は『醜男』と言いまして、品定めの達人です」 醜男はじゅるりと涎を垂らしながら神代を嘗め回すように喋る。 醜男「ほほォ、うまそうな上玉のメスだなぁ・・ふひへへ、あっしの子供でも孕ませてやろうか?」 神代「ふん・・・そういうことか」 安藤が諭すように優しい口調で話す。 安藤「あなたのような綺麗な方が、戦いに負ければどうなるか・・・お分かりでしょう?悪いことは言いません。よく熟慮してください」 ルカ「ひい、ま、ますたぁ・・・」 ルカは泣きそうな目で神代にしがみつく。 醜男「金目当てだが、なんだかシラネェが・・・自分の体が大事ならとっとと帰っちまうことだなぁ!!ふひえひえへえ」 神代「・・・・いくらだ?」 安藤「?」 神代「私の体はいくらだと聞いているんだ!!」 神代はきっと睨みつける。 安藤「・・・醜男」 安藤は残念そうな顔で醜男に振り向く。 醜男「ふへええ、そうだな・・・若くて健康で孕み頃の上玉のメスだ・・・一晩、本番有りで10万・・・一週間で100万ってところかぁ?」 醜男はげひげひと、呻きながら腰に刺さった電卓を叩いて計算する。 神代「・・・そんなものか・・・」 醜男「げひ、たった数分でこんぐれもらえるんだ、贅沢言ちゃあいけねえぜェ・・・お金は大切にしないとなッげひひひ」 ルカ「ま、マスターダメですよ!!絶対ダメです!!」 神代はルカを優しくなでる。 神代「大丈夫よ、今日はどんな感じか見に来るだけっていったでしょ?」 醜男「なんでェ・・・冷やかしかよ・・・けっ・・・ツマンネェ!!」 醜男はぷいっと背中を向けると、部屋に戻っていった。 安藤「む・・・そろそろ、本日のメインイベントが始まるようですね」 神代「メインイベント?」 マリー「哀れな美人女性オーナーの成れの果てです」 マリーはにっこりと笑った。 To be continued・・・・・・・・ 次に進む>「敗北の代価 3」 前に戻る>「敗北の代価 1」 トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2334.html
夢現で思うのは幼馴染の少年の事。 何故だろうか、食い違ってしまったのは。 (こんな筈じゃ無かったのにな) 多分、“私”はあの悪魔と契約をしたのだ。 覚めて行くまどろみの中で飛鳥はそう思う。 バッテリーの充填率は3割。 充分だ。 飛鳥の巡航速度は人が走るより速い。 今から出てもまだ間に合う。 まだ、北斗を守れる。 「きっとその為に、私が此処に居るんだ」 本来ならばバッテリーのチャージが終わるまで、決して起きるはずの無い武装神姫が目を覚ます。 それは別段超常的な事ではなく、万に一で起こりうるただのバグ。 ただ、それがココで起きた事はほんの微かな奇跡。 飛鳥は未修復の千切れた右腕を押さえながら、夜の空に翼を広げる。 「行かなくちゃ!!」 私が待ってる。 アスカ・シンカロン12 ~賑禍~ 「……はぁはぁ、間に合ったぜ」 家から走って校門を乗り越え、窓を割って校舎の中へ。 そして屋上まで階段を駆け上り、ジャスト15分。 「……やっぱり来てくれた。北斗ちゃんは私の事が大切なんだよね?」 北斗ちゃん。 その呼び方は……。 「……お前、やっぱり明日香なのか……?」 「どっちだったら良かったの?」 「え?」 「北斗は、夜宵ちゃんと明日香。どっちが良かったの……?」 「それは……」 「私は。どっちになればいいの……?」 「お前、何言ってるんだ!! そんなの、元もままで良いに決まってるだろ!!」 「……」 「だ、そうですヨ」 明日香か夜宵かも定かではない少女の背後から、白い悪魔型が姿を見せる。 「やはり、貴女達は同じでなければ受け入れられなイ」 「……テメェ」 「さあ、考えましょウ。二人が同じになる方法ヲ。……そうでないト。……彼に受け入れてもらえなイ」 「テメェが元凶か!!」 「まさカ。私はただ提案しただけでス。同じだからいけないのかも知れないッテ」 違えば。 何かが変わるのだと。 「そしテ、それが誤りだったのではないカ、と。提案しているだけですヨ?」 それを実行に移したのはカノジョ。 実行に移させたのは。 「他ならヌ、貴方でス。神凪北斗」 「テメェをぶっ壊す!!」 「どうぞご自由ニ。でも良いんですカ? 私にかまけているト―――」 「…………」 屋上のフェンスを、少女は昇り始める。 「……っ」 どちらの名前を呼べば良いのか。 その間に白い悪魔型が迫る。 「如何しましタ? ワタシを壊すならお早めニ。……でないト、でないト。……カノジョ死んでしまいますヨ?」 「……クッ!!」 フェンスはそれほど高くない。 あっという間に彼女の手がその縁に掛かる。 「待て!!」 駆け寄ろうとする北斗の眼前に踊り出る白い悪魔。 その爪が正確に北斗の眼を狙う。 「……チッ!!」 腕で叩くが、さほどのダメージでもないらしく、すぐに次が来る。 「邪魔するな!!」 彼女の片足がフェンスを越えた。 白影は正確に眼を狙ってくる。 払っていては、間に合わない。 「……!!」 覚悟を決めた。 目の一つ二つ奪われても、彼女の所まで辿り着く。 それが先だ。 「無駄でス。彼女は死ニ、貴方も死ヌ。ソレがワタシの食事なのですかラ。邪魔をしないで下さイ!!」 視界に飛び込んでくる爪が迫る。 だが、足は止めない。 払う暇も無い。 彼女は既に重心をフェンスの向こうに。 「 ーーーッ!!」 自分で。 どちらの名前を呼んだのか。 神凪北斗には自覚が無かった。 爪が。 フェンスを。 迫る。 乗り越えて。 突き刺さる。 落ちる。 ―――直前。 「北斗!!」 「―――っく!!」 「!?」 “吹き飛んだ”悪魔型の横を抜け、フェンスに駆け上がった北斗の手は確かに落ちる少女の腕を掴んでいた。 -
https://w.atwiki.jp/nekokonomasuta/pages/8.html
【武装神姫 MMS,Type RABBIT】 【WAFFEBUNNY】 「任務……完了」 戦場と言う名の地獄を潜り抜けてきた心は何を思うのか レンズの奥の決して見える事の無い瞳は、何を写すのか 黙々と任務を完遂する彼女たち、ある者は不幸にも生き延び、再び地獄に舞い戻り、ある者は死に、地獄へと突き落とされる 戦場を、兎が草原を飛跳ねるが如く、駆け抜ける 『兎型MMS ヴァッフェバニー』 ヴァッフェバニーはハウリン、マオチャオと共に第二弾として発売された神姫だ、 特殊部隊の兵士の様な佇まいの通り、強襲任務やゲリラ戦を得意とする。中~近距離の射撃戦に置いてその能力を発揮するが、フォービーブレイドによる白兵戦能力も高く、オールラウンダーに近い特性を持つ。 またサバイビバリティ能力が極めて高いのが特徴で、戦闘時の生存性に優れている。 装甲は極端に厚い箇所も無いが薄い箇所も少なく、安定した防御能力を誇り、かつ運動性、柔軟性はトップクラスと言える。 【基本能力】 ヴァッフェバニーは白兵戦闘のプロフェッショナルである。 そのため戦闘基本値に以下の修正を得る。 【射撃基本値】(+3) 【格闘基本値】(+3) 【回避基本値】(+3) 【特殊】射程10以下の敵からの射撃攻撃【威力】(-1) 【技能】 ヴァッフェバニーはキャラクター製作時に、以下のリストから技能を3つ習得できる。 また経験を積んでキャラクターレベルが上昇した場合、3で割り切れるレベル(3,6,9,12……)に到達する度、新しい特殊技能をひとつ、修得できる。 ヴァッフェバニー 技能リスト 《追加HP》 《一斉発射》 《ウェポン習熟》 《緊急回避》 《逃走》 《シールドブロック》 《追加SP》 《反射神経》 《連携攻撃》 《タフネス》 《突撃》 《不死身》 《SP回復》 《鉄壁》 《間接砲撃》 《狙撃》 《待機攻撃》 《複数目標攻撃》 《ステルス》 《掃射攻撃》 《回避フォーメーション》 《高速移動フォーメーション》 《速攻フォーメーション》《集中砲火フォーメーション》 《防御フォーメーション》 《砲撃フォーメーション》 【基本性能】 【射撃修正】(+1) 【センサー性能】(+2) 【速度】(6:走行/VTOL) 【格闘修正】(±0) 【装甲値】 ( 5 ) 【旋回】(3) 【回避修正】(±0) 【HP】 ( 24 ) 【パワー】 ( 5 ) 【格闘武器】 名称 /威力/格闘補正/使用回数 格闘 / 5 / ±0 / ∞ アーミーブレイド / 9 / ±0 / ∞ 【射撃武器】 名称 /威力/~5/~10/~15/~20/使用回数/間接/連射 カロッテP12 / 7 /+6 / - / - / - / 6M / × / × カロッテTMP / 8 / +2/ ±0/ -/ - / 6M / × / ○ STR6ミニガン / 10/ -3/ -1/ -4/ -/ 12M / ×/ ○ 【カスタムデータ】 【部位】 /【CP】/ 【名称】 /【効果】 頭部 / (0)/ KO-204スコープ /《射撃+1》 《センサー性能+2》 胸部 / (0)/ buAM_VLBNY1アーマ- /《HP+2》 《装甲+1》 脚部 / (1)/ WFブーツ・タイプ・クレイグ /《HP+2》 《装甲+1》 《速度+1》 背部U / (2)/ リアブースターJRv21+exSBT /《VTOL》 《追加ラック(アーミーブレイド搭載)》 武装 / (2)/ STR-6ミニガン 計 /( 5 )
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2362.html
ダゴンちゃん敗北す ダゴンちゃん戦記 オーナーの私がこう言っては何だが、ダゴンちゃんは強い。 今まで26戦26勝。 ぶっちゃけ無敵街道爆進中だ。 それもこれも、機械マニアの姉に改造してもらった装備のおかげ。 見た目こそ普通のマリーセレスだが、装甲防御と自動攻撃能力は現行神姫の最先端を行く性能だ。 下位の神姫はもとより中位の神姫も殆ど相手にならない。 強さを求めるオーナーにとっては、最上級の武装神姫だと言っても過言ではないはず。 「問題は。私が欲しかったのは、着せ替えして遊べる神姫だったって事かしら?」 ところがあのタコ、服には全く興味を示さないでやんの。 可愛いワンピも、豪華なドレスも、背徳的なゴシックも―――。 「服とかはいい、お前の罪を数えるのだ」 とか言って着てくれなかったし。 「あーあ。黙ってればすっごい可愛いんだけどなぁ、ダゴンちゃん」 人間で言ったら、100人中100人が美少女と評して止まないだろう容姿だ。 神姫は赤壁を初めとした、ごく一部を除いて美少女揃いなのだが、マリーセレスの魅力は頭一つ飛び出ていると私は思う。 カナン神話は水の豊穣神から名を貰ったダゴンちゃんは、数あるマリーセレスの中から選びぬいた特上美少女だ。 少なくともこの子以上に可愛い神姫を私は知らない。 親馬鹿じゃないわよ? ホントに可愛いんだから。 口さえ開かなきゃ。 あと変な事しなければ。 「はぁ。着てくれないと分っていても、買ってきてしまう可愛いオヨ服」 朝一でゲットした本日の購入物はスクールスタイル。 ブレザー一式と上に着るコート。 ソックスやローファ等も完備した、正に至上のコスチューム。 「ただいま~、ダゴンちゃん居る?」 ……。 玄関開けても返事は無い。 休日なので姉は寝ているのだろう。 あの姉、機械弄りは神懸っているが、それ以外のあらゆる才能を神に剥奪された一種のダメ人間だ。 料理一つまともに出来ないが、料理マシンを作って料理を作らせたらやたら美味かったのでムカついた。 まぁあの姉はいい。 毒にもならんが薬にもならん。 問題はダゴンちゃんだ。 アレは喩えるなら致死量をはるかに越えた猛毒だ。 はんどるびーけあふりーである。 そもそもあのタコ―――。 「べちゃり」 「―――うぎゃぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 何か今べちゃって!! べちゃって!! 首筋に何か落ちてきた!! へばりついた!! 「孤独を愛するあまり孤独死しそうでした~」 「やはり貴様かぁー!!」 首筋から吸着機でへばり付いてたダゴンちゃんを引っぺがして床に叩きつける。 乱暴とか言う無かれ。 コイツ、べちゃっとか床に張り付いて全然応えてないし。 「プルプル。私は悪いマリーセレスじゃないよ?」 「かなりギリギリ、グレーゾーンよ!!」 「寂しくて死ぬかと思たですし」 「兎ってガラ?」 「ダゴンちゃん触手です」 はいはい、そうでした。 クラゲ型かと勘違いしてたのは私ですよ。 「…いや、ほら。クラゲ可愛くない?」 「イマイチですかもー」 「可愛いと思うんだけどね」 水族館でクラゲの水槽前に一日居ても飽きないし。 「虚しい青春送てますのねー」 「虚しくないよクラゲ? いやほら、可愛いは正義じゃない!?」 「んー、微妙ですかもー」 そう言って壁にへばりつき、緩慢に登って行くダゴンちゃん。 「それではますたーも落ち着いた所で再会のハグを~」 「せんでいいわ!!」 天井から奇襲するのは敵相手だけにして欲しい。 「それより新しい服を勝って来―――」 「嫌(や)ですー」 「―――って早っ!!」 ぴゅーっと走り去るテンタクルス。 そんなに早く移動できたのか。 あと如何でもいいけど、壁から降りろ。 「ホントにあの子は仕方の無い」 だが、嫌がるものを無理強いさせるのもアレなので、姉さん起こして早めのお昼にするとしよう。 ◆ 「水の中は落ち着くですしー」 水中にたゆたい安息を得るダゴンちゃん。 神姫にとって水の張ってあるお風呂は格好のプールだ。 水中戦の練習からレジャーまでお手軽に楽しめる。 「ふわふわ。とってもいい気分ですかも」 まどろみの中で、自我が拡大してゆく。 「このまま世界征服とかできるかも知れぬです」 えらくすごい方向に拡大していた。 「でもめんどいですし、明日にするですよ」 そして早々に救われる世界。 ダゴンちゃんはゆらゆらと水中を漂う。 「このままますたーがお風呂に入って来るのを待つですねー」 武装神姫は大概そうだろうが、ダゴンちゃんも例に漏れずマスターが大好きである。 四六時中へばり付いていたい位だが、何故かマスターはへばりつくと絶叫して引っぺがしにかかる。 もしくはへばりつく前に阻止されるか、だ。 ならばへばりつくには如何したらいいか? 答えは一つ。 マスターの意識していない時に、有無を言わさずへばり付いてしまえばいいのだ。 「湯船に入ってきたらペッタリするですよー」 ワクワク楽しみ。 マスター大好き。 ダゴンちゃんに悪意は無い。 あるのはただ、(あらぬ方向に行き過ぎた)愛だけである。 「ふわふわポカポカ気持ちいいですし」 人肌の温かさは好きだ。 もっとマスターにペッタリしたい。 「早くますたー来ないかな?」 ぬくぬく。温か。 「そう言えば来月から海ステージ解禁ですねー」 陸地は水没したビル群の屋上のみと言う素敵ステージだ。 天海では冷遇がちな、空戦型神姫や水中型神姫にとっては待ち望んでいた戦場でもある。 「ますたー連れて行(い)てくれるでしょかー」 機会があれば件の海ステージで熱闘を繰り広げてもいい。 戦うのは特に好きでもないが、戦場の空気は好きなのだ。 あの、えも言われぬ緊張感はオーナーさんには分るまい。 「あー。でも最近はそうでも無いですかも」 ライドオンシステムとか有るらしいし。 「ますたーにライドオンしてもらうのもいいですかもー」 ぐつぐつ。 マスターと一心同体になるのは、何だか少し恥ずかしい。 「ほっぺ赤くなりそですよー」 水面から顔だけ出して、ぷしゅーと口から湯気吐くダゴンちゃん。 なんだかとっても身体が火照る。 「むにー、なんだか意識がもーろーとして来たかもですしー」 熱い。 水面がぐらぐら揺れている。 「もーだめ」 夢現(ゆめうつつ)の狭間で、ダゴンちゃんは自らの意識を手放した。 ◆ 「ぎゃぁーーーーーーーーーーーっ!! ダゴンちゃんがお風呂で煮えてるぅーーーーーーーーー!!」 湊の絶叫が貴宮家の風呂場に響き渡ったのはそれから一時間後だった。 対戦成績 引き摺りこむ深海聖堂:ダゴンちゃん。 VS姉ちゃん:はいぼく。設定温度50度は、既にお風呂じゃないとおもう。 ダゴンちゃん敗北す・完!! 貴宮家のお風呂は台所から遠隔操作で給湯、過熱ができます。 そして姉ちゃんは熱いお風呂が好き。 -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1683.html
雪と油・後編 何を言ってるんだこいつ?マスターがいない?マスターがいない武装神姫なんて普通あるわけが無いだろ。 「なんでか知らないけどさ、誰かに起動させられてマスター登録も無しに外に放り出されたんだ。装備と一緒にね。」 「・・・なんでそんな事を?」 「知らないって言ってるだろ?それでふらついてたらさ、いきなり上からたくさん雪玉が降ってきて」 埋もれてた・・・って訳か。 「で、これからどうするつもりだ?また彷徨うか?」 「そうだねぇ・・・ここに住んじゃダメ?」 「は?」 いきなり何を言い出すんだこいつは。オイル切れか?いや、オイルはさっきからずっと飲んでいる。 「だーかーら、ここあんたの家だろ?ここに住んじゃダメか?って事。」 「駄m「オッケーオッケー!大歓迎だよ!」 「ちょ、勝手n「他に行くあてがないなら、どうぞ」 「おい人が話s「ありがとう!」 「・・・もういいよ。勝手にしてくれ。」 こうして、山田家に新たな住人が加わった。 「名前は?」 「無いよ。」 「じゃあずっと油飲んでるからオイルで」 「うっわ、安直。」 家に戻った俺たちは、オイルと一緒だった装備の箱の中を見た。 「ちゃんと基本武装は一式揃ってるんだな」 「あたし軽い装備とこれがあればいいよ。あとあげる」 イーダが手に取った武器は「アンチムーバソード【エアロヴァジュラ】」だ。これ一本で十分らしい。 「あげるって言われてもな・・・礼奈、これ使うか?」 「・・・わかんない」 それでも試してみる、との事で、礼奈は残りの武装を持って部屋に戻っていった。 数十分後。 「何とかできたよ」 礼奈が持ってきたのは、ストラーフのDTリアユニットのところにイーダの装備の前輪部分(爪がある所)を工夫して取り付けてあり、さらにそこにアームパーツを付けて「六本腕」にしたものだった。 「これまた重そうだな・・・」 「レイナの装備チューンのセンスはカズアキのネーミングセンス並に悪いね」 「にはは・・・」 その頃のキルケとタマは・・・ 「どうして私たちはいつの間にか喋らなくなるんでしょうか?」 「わかんない」 とにかく、これからはもう少し会話に混ざる努力をしないといけませんね」 「がんばって~」 「タマ、あなたもするんですよ?」 第十一話につづく 前編に戻る ネコのマスターの奮闘日記
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/83.html
<明日の為に、其の1!> 「これ以上戦えぬ者に手を出す気はありません、再戦を楽しみにしています。」 また今日もいつものように戦闘停止を申告し、結果的にはドローになる。 8戦やって0勝0敗8分、デビューしてから毎回この調子なのだ。 どうやら自分の趣味が彼女に変な価値観を植えつけてしまったらしい。 そもそも巷で大流行の武装神姫を購入する予定は一切無かった。 仕事で散々扱ってきたのに、病気で休職中の時まで見たくなかったのが正直な感想だ。 「リハビリ兼ねて、お前のボーナスは現物支給でコレだから。」 とは上司の台詞である。 本来は開発に携わった人物がバトルサービスに関わるのは好ましくないのだが、 神姫本体では無くバトルサービスのシステム開発部である事と、 ある種の市場調査を兼ねての特例との事らしい。 その際に都合良く休職中の自分に白羽の矢が立った訳だ。 こうして、我が家にフルチューンされたストラーフがやって来たのである。 正直、戦闘用フィールドばかりを手がけた為か、何から手をつけるのかすら知らない。 名称は事前に”エスト”として登録してもらっているので、とりあえず起動? 「はじめまして、今日からよろしくお願いします師匠。」 「おう、よろしく・・・って師匠!?」 「そのように呼称設定がなされておりますが、何か問題でも?」 「いえ、面倒なのでそのままで結構でございますです。」 面倒だからと初期設定を友人に任せるのは、余計に面倒な事態を引き起こすようだ。 起動から数時間、すっかりウ○ザードやト○ーズ閣下に感化されたようだ。 闘いの美学がどうとか、エレガントにとかブツブツ言いながら武装を選定している。 上司に渡されたカタログでスペックを確認してみるが、どうやらサード程度なら武装無しでも問題無いらしい。 某シューティングの1面で上上下下左右左右BAを使うようなものだろうか。 などと馬鹿な事を考えているうちに気に入った武装を発見したようだ。 自分の2倍弱程の長槍を満足気に振り回している。 「それって懐に入られると邪魔になりそうだな。」 「甘いですね師匠、ちゃんと中心で分割されて2本の槍になります。」 「それはそれは、無知で申し訳御座いませんねー。」 「だからお前は阿呆なのだ!」 いや、それ師匠と弟子の立場が逆だから。 「で、火器の類は見当たりませんがどうすんのさ?」 「そんなエレガントじゃない武器は必要ありません。」 言っても無駄なのを理解したので、残りのパーツで飛行ユニットをでっちあげて 勝手に護身用の銃器を仕込んでおいたのは別の話だ。 こんな調子でこれからやっていけるのだろうか。 師匠と弟子
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2104.html
ウサギのナミダ ACT 1-2 ■ 休みの日、マスターは朝早く起き、天気が良ければ近くの公園まで散歩に連れていってくれる。 わたしはこの朝の散歩が大好きだ。 ぴんとはりつめたように澄んだ空気、ひんやりと頬をなでる風、そして蒼く遠い空。 世界はこんなにも広く、きれいなのだと実感できるから。 そして、いつもは厳しい表情のマスターも、このときは少し優しい表情で一緒にいてくれるから。 わたしは、マスターの上着の胸ポケットから顔を出し、朝の世界を眩しく見つめた。 マスターの住まいから歩いて五分ほどで、目的の公園に到着する。 マスターによれば、この界隈では一番広いのだそうだ。 公園内は遊歩道が整備されており、昼間は散歩する人や、走り回る子供たち、のんびりと歩むご老人のみなさんなどがやってくる憩いの場だという。 わたしもジョギングをする人を見たことがある。 でも、日曜日の早朝は、たいてい誰もいない。 今日も人影はなく、わたしたちだけが公園内へと入っていく。 わたしは、マスターを見上げ、 「マスター」 声をかけた。 マスターがわたしを見つめる。 この人の視線はいつも厳しく感じられるけれど、いつもまっすぐだ。 わたしは小首を傾げるようにして、おそるおそるマスターを見た。 するとマスターは口元だけかすかに笑ってくれた。 「よし、行け」 マスターの許可が出た。 わたしは思わず笑顔になり、マスターの胸ポケットから飛び出した。 わたしの身長の何倍もの高さから、空中に躍り出る。 こわがらず、そのまま着地。 膝のクッションを効かせて、着地の衝撃を吸収する。 衝撃を完全に吸収してくれたのは、わたしに両脚に装着されたレッグパーツ。 マスターが作ってくれた、わたしのオリジナル武装だ。 わたしは、身体が沈み込んだ反動を利用して、前方に飛び出す。 レッグパーツのホイールが甲高い唸りを上げる。 わたしは腕を振ってバランスを取る。 一気に加速し、疾走を開始する。 風になる。 ここからはわたしの大好きな時間。 遊歩道を走る、疾る。 思うさま疾駆する。 ものすごい勢いで流れていく公園の木々。 風に溶けていくような感覚。 なんともいえない解放感がわたしを包む。 それは何度感じても、嬉しくて気持ちのいいものだった。 公園を囲む遊歩道の二つ目の角が見えた。 わたしはそこで体を起こし、スピードを落としながら一八○度ターンをする。 簡単なトリックだけど、きれいに決まったのが嬉しい。 わたしはまた前傾姿勢で走り出す。 わたしの大好きな時間の最後には、マスターが待っていた。 左の肘を水平に突き出して立っている。 瞳はわたしに不敵な視線を送っている。 これは課題だ。 神姫のわたしにマスターが出題するパズル。 わたしは、あのマスターの左肘に着地しなくてはならない。 先週は、マスターがベンチに座っていたから、難易度が上がっている。 わたしはスピードを落とさずにマスターへと駆け寄る。 そして走りながら、マスターの肘へと至るルートを見定める。 最後の数メートルを滑走し、タイミングを計ってジャンプ! わたしは、マスターの肘の先にあった公園の植木に飛びつくと、木の幹にホイールを走らせて、巻き付くように登り出す。 一気にマスターの肘の上まで登ると、そこでまたジャンプ。 着地点を見定めながら、一回転一回捻り。 回転を終えた瞬間、わたしはすとん、とマスターの肘の上にお尻から着地して座った。 「よし、上出来だ」 わたしのトリックプレイに、マスターは素っ気ない口調で、そう言った。 わたしは、さっきよりも和らいだマスターの表情を見つけて、やっぱり嬉しくなった。 にこりと笑顔をマスターに贈り、わたしは再びマスターの胸ポケットに滑り込んだ。 わたしの大好きな時間はこれでおわり。 でも、マスターの住まいに帰るまでの間、嬉しさでいっぱいになったわたしの胸はずっと高鳴っていた。 □ 散歩が終わり、朝食を食べて一休みしたら、俺は最寄りの駅前にあるゲーセンにティアを連れて向かった。 ティアをバトルにデビューさせて二ヶ月が経つ。 週末はずっとこんな感じで、散歩のあとでゲームセンターに足を運んでいる。 武装神姫のバトルは、公式の神姫センターや神姫を扱っているホビーショップなどでも楽しむことができるが、俺はもっぱら近場のゲーセンだった。 足を運びやすいのが一番の理由である。 もう一つはティアの武装だ。 ティアのレッグパーツは、俺が部品を集めたり作ったりして組み上げたオリジナルだ。 公式武装がメインの神姫センターは出入りしにくい。 雑多な神姫達が集まるゲームセンターの方が都合がいいのだ。 まだ昼前の時間帯で、ゲームセンターの武装神姫用筐体の周りもあまり賑わっていない。 その方が都合がいい。 むしろそれを狙って、少し早い時間帯に来ているのだ。 俺は対戦用の筐体に座ると、ティアをポッドに収め、サイドボードに武装を並べる。 ここでのバトルは、基本的にコンピューターを介したバーチャルバトルである。 俺はステージを「廃墟」に固定し、一人用のミッションモードを開始する。 コンピューターの出す課題を次々にクリアしていくこのモードは、一人でもバトルができるが、訓練に過ぎない。 俺はティアに細かく指示を出しながら、黙々とミッションを消化した。 つまりはこうして対戦者を待っているのだ。 対戦者待ちをするのには理由がある。 ティアの戦闘スタイルの特性上、市街戦しか有効に戦えないのだ。 つまり、ステージを固定するために、乱入者を待っている。 ……そう思っている間に、早速乱入者がやってきた。 三戦ほどやって、負けたところで席を立つ。 今日はいずれも地上戦メインの神姫とのバトルだった。 よく手合わせをする、顔見知りの常連さん達だ。 負けを喫したのは、バッフェバニー・タイプ。 あの神姫はティアよりも火力がある上に、機動性能もいい。ミリタリーファンに好まれる神姫だけに、市街戦での戦術は見事だった。 俺は神姫バトルを映し出す大型モニターを眺めながら、缶コーヒーを開けた。 「ティア。今のバトル、何が問題だった?」 俺は胸ポケットから顔を出すティアに尋ねる。 負けた後は、必ずこうしてバトルの検討をする。 俺たちは決して強いわけではない。 オリジナルのバトルスタイルを確立するため、細かく検討する必要があるのだ。 「えと……相手がビルにうまく隠れて、なかなか攻撃できませんでした」 「そうだな。市街戦の腕前も相手の方が上手だった。位置取りがうまかった」 「あ、あと、相手の攻撃にさらされることが多かったと思います」 「……こっちの行動パターンが研究されているかな」 「かもしれません……前に戦ったときとは違うタイミングや方向から攻撃を受けたような……」 バッフェバニーは銃火器による攻撃がメインだから、ティアは狙いをはずすような機動を心がけて戦うことになる。 ビルの壁や屋根も縦横無尽に駆け回るティアを、幾度と無く捕捉できるというのは、やはり行動パターンが読まれているのか……。 「いよう、遠野! 調子はどうだ!?」 人の思考を大声でぶちこわして現れたのは、革ジャンを着た派手な男だった。 「……大城、もう少し声を抑えてくれ。それでも聞こえるから」 「おお、うるさかったか? そりゃすまん、わっはっは」 なおのことうるさくしゃべるこの男は、大城大介。 以前バトルしたティグリース・タイプのオーナーだ。 おそらくは今も外に駐車してあるだろう、ごっついバイクを乗り回し、神姫にもエアバイク型のメカに乗せている。 シルバーのアクセサリーをこれでもかと身につけ、派手な柄のシャツに革ジャンという出で立ちは、どこからどう見てもヤンキーである。 バトルの後、難癖付けてきた大城を言い負かしたのだが、なぜか次に会ったときにはやたら気さくに声をかけてきた。 それ以来、俺の姿を見つけては声をかけてくるようになった。 俺たちのどこが気に入ったのだろうか。 それは目下、俺にとって最大の謎であった。 「……そっちは、来たばかりか?」 「おう。虎実のマシンの整備に手間取ってなぁ」 大城の肩を見ると、そこに彼の神姫・虎実が座って、こちらを睨みつけていた。 「……よお、虎実」 声をかけると、ぷい、とそっぽを向いた。 俺は小さく肩をすくめる。 虎実はいつもこんな調子だった。オーナーの大城の態度とは正反対だ。 「悪いな。こいつもほんとは照れてるだけなんだ」 「ばっ……! 照れてなんかいねぇ! 慣れ合うのがイヤなんだよっ!」 ムキになって否定するが、大城はせせら笑っている。 大城がからかい、虎実はさらにムキになる。 この漫才は、とうとう頭に来た虎実がクローを装備し、大城の顔をひっかくまで続くのだ。 ゲームセンターに通うようになって、俺の生活も変わった。 こうして神姫のオーナーたちと一緒に過ごす時間は、いままでの俺の生活にはなかった。 武装神姫を始めなければ、大城などとは一生会うことも話をすることもなかったかもしれない。 そう思うと、神姫はただバトルをするだけの存在ではなく、オーナーたちの枠を広げ、知らない世界を見せてくれる存在なのだと実感する。 「おっ?」 虎実にひっかかれ、顔中をミミズ腫れにした大城が、ゲーセンの入り口に注目した。 「遠野、あそこ見ろよ」 そこには一人の少女がいた。 大城は女の子に目がないので、妙にめざといのはいつものことだ。 だが、大城が注目するのも無理ないと思わせるほど、その少女は美人だった。 ショートカットにした髪と細いジーパンという装いのせいか、活発そうな印象だ。 手には、神姫収納用のアタッシュケースを下げている。 彼女はきょろきょろと店内を見回している。 「神姫のオーナーか……?」 俺が呟く。 すると、その声が聞こえたかのように、少女はこちらを見た。 視線が合う。 すると、少女はまっすぐこちらへやってきた。 隣で大城がなにやら喜んでいるような気配がするが、あえて無視した。 「こんにちは」 とても気さくな挨拶が、微笑みとともにすっと入り込んできた。 「こんにちは!」 「誰かお探しですか」 大城の挨拶が終わるのを待たずに、俺は本題を切りだした。 すると、彼女はちょっと驚いた顔になったが、すぐに落ち着いて、こう言った。 「ええ。……ハイスピードバニーのティアっていうオリジナルの神姫をご存じですか? このゲーセンがホームグランドだって聞いたんですけど」 俺と大城は顔を見合わせた。 「ハイスピードバニー?」 「はい。なんでも地上戦専用の高機動タイプで、バニーガールの姿をしているとか。とても 特徴的な戦い方をすると噂に聞いています」 「……それで名前がティアなら、俺の神姫かもしれないけれど……」 「ほんとですか!?」 このショートカットの美少女は声を上げて、にっこりと笑った。 ほとんど反則な笑顔だ。 「よかったぁ。会えないと大変なんですよ。何度も通わなくちゃいけないし」 「しかし、ハイスピードバニー?」 彼女が口にした呼び名だ。 そんなベタな名乗りを上げたことはないはずだが……。 「この近辺では有名ですよ。みんなハイスピードバニーという二つ名で呼んでますね」 俺は苦い顔をした。 あまり目立たないように戦ってきたつもりだったが、やはり特徴的な戦闘スタイルが目に付くのか。 しかも、二つ名まであるのか。 そんな心配と同じくらい、ひねりのないネーミングに不愉快になる。 「それで、君はわざわざ、ティアと戦いに来たというわけ?」 「はい。遠征して、いろいろなタイプの神姫と戦うのが好きなんです」 この少女は、迷い無くはきはきと答える。 年の頃は、俺と同じか少し下くらいだろうか。 武装神姫のプレイヤーにはとても見えない。 テニスか何かをやっていると言われた方がよほど現実味があった。 「バトルしてもらえませんか? 私の神姫と」 「君の神姫は……」 「ここよ、ここ」 小さな声がしたのは、彼女の肩あたり。 いつのまにか、一体の神姫が、少女の右肩に座っていた。 特徴的な巻き髪を揺らしながら、にこにこと笑っている。 「イーダ・タイプか……」 イーダ・タイプは高機動タイプのトライク型だ。 地上戦専門の神姫だし、確かにティアとは噛み合うだろう。 だが、本体がイーダ・タイプだからと言って、武装までそうだとは限らない。 「ミスティよ。よろしくね」 神姫は自らそう名乗った。 それを聞いた大城がいきなり叫びだした。 「イーダのミスティと言えば! もしかして、エトランゼ!?」 「……まあ、そんな呼ばれ方もしてますね」 「エトランゼ?」 俺は大城の方を向いて尋ねた。 すると、大城は大きなため息をついて、俺を見る。 「遠野、おまえは俺よりも神姫に詳しいくせに、なんで他のプレイヤーや噂には疎いんだ……」 失敬な。雑誌に出るようなプレイヤーたちなら俺だってチェックしてる。 大城はまたひとつため息をつきながら、俺に解説してくれた。 「『異邦人(エトランゼ)』のミスティと言えば、この沿線あたりじゃ有名な神姫だぜ。 噂になっているような強い神姫を相手にするために、あちこちのゲーセンやホビーショップの対戦台に現れる凄腕の神姫プレイヤー。 腕前もかなりのものらしい。それなりの腕の神姫をあっさり負かしたりするそうだ。 で、その神姫のマスターは、結構な美少女って噂だけど……」 大城はちらりとミスティのマスターを見た。 「噂通りってとこだなぁ」 彼女は困ったように笑っている。 「それで、あなたの神姫は? 今日は連れてきてないですか?」 「いや……ティア」 俺がそっと促すと、胸ポケットから、ティアがおずおずと顔をのぞかせた。 「わぁ、かわいい!」 少女は身を屈めて、俺の胸ポケットをのぞき込む。 ティアは恥ずかしいのか、半分顔をポケットの縁で隠しながら挨拶した。 「こ……こんにちは……」 「こんにちは」 返事を受けて、ティアはますます顔を隠してしまった。 「ティアは照れ屋さんなのかな?」 「ああ、ちょっと人見知りでね」 「噂通り、うさ耳なんですね。かわいいなぁ」 少女は無邪気に笑う。 なんだか、この笑顔に調子を狂わされっぱなしだ。 「それで、どうですか?」 「え?」 「私のミスティとバトルです」 「ああ……」 無邪気な笑顔とバトルという言葉に違和感を感じて、俺は少し戸惑う。 だが、断る理由がない。名の知れた、しかも地上型とのバトルなら歓迎だ。 「ティア、どうだ? やれるか?」 「マスターが……戦いたいというのなら」 俺は頷くと、少女に向き直った。 「フィールドは、廃墟か市街地。それでもいいかな?」 「望むところです」 そう言って、少女はにっこりと笑い、空いている筐体に歩み寄った。 俺も筐体の反対側へと移動する。 まばらだったギャラリーが、少しずつ俺たちの座る筐体の前に集まりだした。 まだ始まってもいないバトルにギャラリーがつく。 彼女の知名度と、俺たちの注目度は、俺が思っている以上のものであるらしい。 筐体のサイドボードに武装を並べ、バトルの準備をしていると、脇に大城がやってきた。 「なんだ、大城? 彼女の側で見てなくていいのか」 「おまえの次に、俺が対戦申し込むんだよ。おまえの戦略、しっかり見せてもらうからな」 すごみのある笑い。 なるほど、俺から戦略を盗もうという寸法か。 「だったら、一つ教えてくれ」 「おう、なんだ?」 「ミスティは地上型か、それとも違うタイプか。知っているか?」 「噂じゃ、普通のイーダだって話だな。 バトルを見た訳じゃないから、本当のところはわからんが、イーダのくせに、飛行型の神姫もあっさり倒すんだそうだ」 「本当か?」 「まあ、噂だがな」 大城は肩をすくめた。 その噂が本当だとしたら、ミスティは相当な実力の持ち主だ。 地上型の神姫が、飛行型の神姫から勝利を奪うのは難しい。自分より上にいるというだけで有利なのだ。 それをあっさり覆すということは、何か特別な力がある可能性が高い。 それが装備なのか、戦術なのか、策略なのかはわからないが…… 用心に越したことはない。 俺はそう判断する。 筐体の向こうを見てみれば、ミスティのマスターと目があった。 不敵な微笑み。 バトルに向かうにふさわしい表情になった。 なるほど、彼女も確かに神姫プレイヤーなのだ。 それでは始めよう。 俺はティアをアクセスポッドに送り込み、スタートボタンを押した。 次へ> トップページに戻る